使われる経営ダッシュボード

Whyの前に、Whereを示す

経営ダッシュボードは、数字を並べるものではありません。

会議室で、毎週同じことが起きています。

売上が悪い。
なぜですか。

粗利率が悪い。
なぜですか。

成長率が落ちている。
なぜですか。

誰かが仮説を言います。

営業の問題ではないか。 価格の問題ではないか。 競合の影響ではないか。 広告が弱いのではないか。 商品力が落ちているのではないか。

別の誰かが、別の仮説を言います。

どれも間違ってはいません。
しかし、どれが一番重要なのか分かりません。

結論が出ません。
アクションも曖昧になります。
そして、翌週また同じ会議をします。

これは、会議の問題ではありません。

ダッシュボードの問題です。

ダッシュボードが、どこで問題が起きているのかを示していない。
だから、会議がいきなり「なぜ」に飛んでしまうのです。

本当は、なぜ悪いのかを議論する前に、どこが悪いのかを特定しなければいけません。

Whyの前にWhereが必要です。ここが、経営ダッシュボードの出発点だと思います。

Whereが見えないと、会議は空中戦になります

売上が落ちた。

この一文だけでは、何も決められません。

どの地域で落ちたのか。 どの顧客で落ちたのか。 どの製品で落ちたのか。 どのカテゴリーで落ちたのか。 新規が落ちたのか。 既存が落ちたのか。 数量が落ちたのか。 単価が落ちたのか。

ここが分からないまま「なぜですか」と聞いても、議論は広がるだけです。

営業が弱いのかもしれません。
価格が高いのかもしれません。
競合が強いのかもしれません。
在庫が足りなかったのかもしれません。
広告が悪かったのかもしれません。

全部あり得ます。

しかし、全部あり得るということは、まだ何も分かっていないということでもあります。

経営会議で必要なのは、仮説をたくさん出すことではありません。
最初に見るべき場所を決めることです。

ダッシュボードがWhereを示すと、会議が変わります

たとえば、会社全体の成長率が20%から15%に落ちたとします。

5ポイントの低下です。

このとき、単に「成長率が5ポイント落ちました」と表示されても、まだ不十分です。

必要なのは、その5ポイントの低下の内訳です。

たとえば、

5ポイントの低下のうち、Aカテゴリーが3ポイントを占めています。

ここまで見えた瞬間、会議は変わります。

「なぜ全体が悪いのか」ではなく、
「Aカテゴリーで何が起きているのか」に焦点が移ります。

議論の範囲が狭まります。
狭まるから、深くなります。
深くなるから、打ち手が出ます。

このように、全体の変化に対して、どの要素がどれだけ影響しているのかを見る考え方を、英語では Contribution to Change といいます。

私は、この考え方が経営ダッシュボードには不可欠だと思っています。

Whereが特定されず、Contribution to Changeも分からないまま進める会議は、聞き手にも回答者にも苦痛です。

回答者は、毎週毎週、理由の創作に追われます。
聞き手は、しっくりこない説明にフラストレーションがたまります。

数字はあります。
会議もしています。
説明もされています。

それでも、どこか噛み合いません。

その理由は、努力不足ではありません。
見るべき場所が定まっていないからです。
そして、その場所が全体にどれだけ影響しているのかが分からないからです。

見るべき場所が分からなければ、Whyの議論は広がります。
影響度が分からなければ、どの問題を優先すべきか決められません。

だから私は、自分のダッシュボードを作り直しました。

単に、どのカテゴリーが悪いかを見るのではありません。
全体の変化に対して、どのカテゴリーが何ポイント影響しているのかを見る。
つまり、Contribution to Changeを入れたのです。

この数字があると、見るべき場所が決まります。

そして、見るべき場所が決まると、Whyの議論が初めて意味を持ちます。

悪い数字と、重要な数字は違います

ここで大事なのは、悪い数字と重要な数字は違うということです。

あるブランドの成長率が80%から60%に落ちている。
これは悪い数字です。

しかし、そのブランドの売上構成比が小さければ、会社全体への影響は小さいかもしれません。

逆に、成長率の低下が一見小さくても、売上構成比が大きいカテゴリーで起きていれば、全体への影響は大きくなります。

経営が見るべきなのは、単に悪い数字ではありません。
全体を動かしている数字です。

だから、ダッシュボードにはContribution to Changeが必要になります。

どのカテゴリーが、全体の変化を何ポイント説明しているのか。
どの顧客が、全体の変化を何ポイント説明しているのか。
どの製品が、全体の変化を何ポイント説明しているのか。

ここまで見えなければ、どこに経営資源を集中すべきか分かりません。

ダッシュボードは、打ち手のインパクトを測るためにあります

Whereが見えると、次に分かることがあります。

打ち手のインパクトです。

Aカテゴリーが全体成長率の5ポイント低下のうち3ポイントを占めている。
ならば、Aカテゴリーを改善したとき、全体にどれだけ戻る可能性があるのかを考えられます。

逆に、Bカテゴリーの数字が大きく悪化していても、全体への影響が0.2ポイントしかないなら、そこに大きな経営資源を入れるべきかは慎重に考える必要があります。

ダッシュボードの役割は、問題をたくさん見つけることではありません。
どの問題に取り組めば、全体に効くのかを見せることです。

これがないと、会社は声の大きい問題から手をつけます。

目立つ問題。
説明しやすい問題。
誰かが強く主張する問題。
たまたま経営者の目に入った問題。

そういうものにリソースが流れてしまいます。

しかし、経営資源は限られています。

だから、ダッシュボードは、どの問題が全体にどれだけ効いているのかを示さなければいけません。

既存のダッシュボードは、なぜ会議を変えられないのか

既存のダッシュボードが会議を変えられない理由は、いくつかあります。

一つ目は、切り口を変えられないことです。

地域別で見たい。
顧客別で見たい。
製品別で見たい。
チャネル別で見たい。

そう思っても、固定された画面でしか見られません。

経営の問いは、その時々で変わります。
しかし、ダッシュボードが一つの見方しか許さないと、問いに答えられません。

二つ目は、Breakdownできないことです。

全体の売上は見えます。
全体の利益も見えます。
前年差も見えます。

しかし、中身に掘れません。

全体数字は、状況を知らせます。
Breakdownは、原因に近づけます。

会議を変えるのは、後者です。

三つ目は、Contribution to Changeが見えないことです。

前年差は見えます。
予算差も見えます。

しかし、その差分を、どのカテゴリー、どの顧客、どの製品が何ポイント説明しているのかが見えません。

これでは、どこにフォーカスすべきか分かりません。

四つ目は、時間軸が分断されていることです。

Weekly、Monthly、Quarter、YTDが別々に見えると、短期のノイズと中期的なトレンドを区別しにくくなります。

理想は、同じKPIについて、Weekly、Monthly、Quarter、YTDを一画面で見ることです。

Weekly今週だけ悪いのか
Monthly月次でも悪いのか
Quarter四半期でも悪いのか
YTD年間累計でも悪いのか

これが並んでいると、短期のブレに振り回されにくくなります。

五つ目は、ForecastとTargetを比較できないことです。

Actualは過去の結果です。
Forecastは最新の着地見込みです。
Targetは本来到達すべき目標です。

経営が知りたいのは、過去だけではありません。

このまま行くと、目標に届くのか。
届かないなら、どれだけ足りないのか。

ここを見るには、Monthly、Quarter、YTDでForecastとTargetを比較する必要があります。

ただし、Weeklyでは不要だと思います。
週次はブレが大きいからです。

Dailyダッシュボードは、経営会議には向きません

個人的な経験として、経営ダッシュボードにDailyを入れすぎるのは危険だと思っています。

理由は、ノイズが多すぎるからです。

曜日要因。
天候。
広告配信の揺れ。
大型顧客の発注タイミング。
キャンペーンの開始・終了。
在庫や配送の一時的な乱れ。

一日単位で見ると、毎日どこかの数字が悪く見えます。

その結果、毎日誰かが説明を求められます。
毎日小さな問題を追いかけます。
毎日小さな改善を求められます。

こうなると、ダッシュボードは経営の道具ではなく、もぐらたたきの装置になります。

チームは疲弊します。

もちろん、Dailyで見るべきものはあります。

サイト障害。
広告費の異常消化。
予約や注文の急落。
在庫切れ。
不正や事故。
クレームの急増。

こうしたものは、Dailyで見る意味があります。
ただし、それは経営ダッシュボードというより、異常検知のアラートです。

経営判断の基本は、Weekly、Monthly、Quarter、YTDでよいと思います。

最初はExcelでいい

経営ダッシュボードを作るとき、いきなりTableauやPower BIに行く必要はありません。

最初はExcelでいい。

むしろ、最初はExcelの方がよいと思います。

なぜなら、最初に必要なのは美しい画面ではなく、経営の型を作ることだからです。

どのKPIを見るのか。
どの切り口で見るのか。
どこまでBreakdownするのか。
Contribution to Changeをどう出すのか。
Weekly、Monthly、Quarter、YTDをどう並べるのか。
ForecastとTargetをどう比較するのか。

これらは、最初から正解があるわけではありません。

実際に数字を見て、会議で使って、違和感を修正しながら磨いていくものです。

その試行錯誤にはExcelが向いています。

列を足せます。
ピボットできます。
計算式を変えられます。
見せ方をすぐ変えられます。
余計なKPIを消せます。
必要な切り口を追加できます。

Excelは不格好かもしれません。
しかし、経営の問いを磨くには強いです。

逆に、型が固まっていない段階でBIツールに入れると、見た目だけきれいな画面ができます。

しかし、使われません。

なぜなら、何を見るべきかがまだ固まっていないからです。

ツールでダッシュボードを作るのではありません。経営の問いをExcelで磨き、その型をツールに載せる。順番を間違えてはいけません。

BIに移行するのは、型が固まってからでいい

BIツールに移行するのは、Excelで型が固まり、運用が重くなってからでいいと思います。

データ量が増えてExcelが重くなる。
更新作業に時間がかかる。
手作業によるミスが増える。
複数人が同時に見る必要が出る。
データソースが複数に分かれてくる。
毎週、毎月、同じ加工を繰り返している。
経営会議や事業会議で定常的に使われるようになった。

この段階になったら、TableauやPower BIに移行すればよいです。

最初からBIを入れると、ツール導入プロジェクトになります。
Excelから始めると、経営改善プロジェクトになります。

この違いは大きいです。

経営ダッシュボードの本質

経営ダッシュボードは、数字を並べるものではありません。

会議の空中戦を止めるためにあります。

数字が悪い。
なぜですか。

この問いを、いきなり始めてはいけません。

その前に、どこが悪いのかを示す必要があります。

会社全体の成長率が20%から15%に落ちた。
その5ポイントの低下のうち、Aカテゴリーが3ポイントを占めている。

この一行が画面に出るだけで、会議は変わります。

見るべき場所が決まります。
議論の焦点が決まります。
打ち手の候補が絞られます。
そして、その打ち手が全体にどれだけ効くのかを考えられます。

これが、経営ダッシュボードの本質です。

ダッシュボードは、数字を見せるためのものではありません。

Whereを示すためのものです。
そして、打ち手のインパクトを測るためのものです。

経営ダッシュボードは、画面のデザインではありません。
経営の問いのデザインです。

そのためには、最初から完璧なBIツールはいりません。

まずExcelでいい。
Excelで問いを磨く。
会議で使う。
型を固める。
運用が重くなったらBIに移す。

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